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思い出の新婚旅行

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ママが携帯電話をかけている。
『龍、今日は学校が終ったら、バイトは休んで真っ直ぐ家に帰って来て』
『なんだよ、急に・・・』
『パパが取締役に昇格したの!凄いでしょう。今夜は皆でお祝い会をするの。もちろんお姉ちゃんにも電話するわ』
母留美子は、娘の優美に携帯電話で同じ事を伝えた。
『へぇ、パパ取締役になったの。凄いじゃん』
 大企業に就職し、札幌支店を振り出しに、名古屋から福岡へと転勤する中で、留美子とお見合い結婚した。次の年、長女優美が生まれ、その後長く子宝に恵まれなかったが、10年目にやっと念願の長男龍太郎を授かった。
 妻の留美子は、健一の両親にも良く気を使って、転勤先に招待しては、孫の成長を喜んでもらった。その両親も五年前母が心筋梗塞で突然亡くなり、父を我が家に引き取り一緒に暮らしたが、一昨年肺癌で他界した。二人とも生きていてくれたら、今日の日をどれ程喜んでくれたろう。
 夕食は、留美子が健一の大好物のエビとチキンのグラタンを中心に腕をふるい、職場の同僚から貰った赤ワインを開けた。
 『月日が経つのは早いわね。今年は結婚三十年よ』
 『パパとママってお見合いで結婚したのよね』
 『僕なんか、知らない人とお見合いで結婚するなんて考えられないけど』
 『パパとママの頃はね、お仲人さんがいてね、この二人なら・・・と言う事で結婚するの。案外この方が客観的で上手くいってるご夫婦が多いのよ』
 『ねぇパパ。昇格祝にお休みが頂けるでしょう。新婚旅行でいった鹿児島へ行きましょうよ』
 『そうだね。あれから一度も鹿児島に行ってない。三十年振りに行ってみようか』
 『パパとママ行ってらっしゃい!きっと新婚時代のパパとママに会えるよ』
 『これまで二人だけで旅行した事なかったね』
 『そうよ、いつも私たち子供も一緒で親子四人旅。今度はお邪魔虫なしの水入らずよ』
 『あの頃の新婚旅行は、奥さんが帽子をかぶり、旦那さんが旅行鞄を持って。お互い何となくギクシャクしてた』
 『ほんとにあんな時代があったのね。指宿温泉の砂むしにも入りましょう』

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