女の一人旅

女の一人旅 (何か始まる予感)

大きな溜息をついたら涙があふれ出した。
泣いてはいけない。自分に負けるから。そう自分を励ますのに、涙は溢れた。
 『もう終りにしよう』決めたはずだった。
 私、室口かなえ。高校の一年後輩に岸和田信一がいた。彼は体格も良く、なにより歌が上手かった。文化祭で堂々と歌う姿は神々しかった。私も合唱部だったので、親しく言葉を交わすようになった。部活の帰り道の方向が同じだったのでよく一緒に帰った。神社の森陰で初めてキスをされた。信一が音楽大学に進んでからも、交際が続いた。ある日、渋谷の人波の中に信一を見つけた。走り寄ろうとした足が止まった。一人ではなかった。それもかなえの親友・紀子と一緒。紀子の腰に手を回した信一は、彼女の耳に何かささやく。紀子は嬉しそうに笑う。この頃少し信一の態度が変わったのは、新しい恋人紀子のせいなのだ。身体から血の気が引いて行く。『捨てられた』のだ。
 雨の日曜日、もう信一は来ない。駅ビルの本屋で何気なく旅行雑誌を手に取ると『あなたも開運旅行を!』の文字が目に飛び込んできた。鍋の蓋を被って鳥居をくぐると運が開けるという。スポーツで有名な選手もこの事から運が開けたという。
 場所は鹿児島県指宿温泉近くの釜蓋神社との記事。行こう!私も自分で運を開こう!
 早速ネットで航空券と指宿温泉のホテルを予約した。開聞岳と錦江湾の見渡せる海辺のホテルを選んだ。涙は海に流そう。そして、南の光から生きる力を貰おう。新しい何かが始まる予感がする。

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